おすすめ新譜情報 New CDs & DVDs!


最近新発売になったヘンデル関連のCD、DVDでお薦めしたいものを紹介します。
投稿はヘンデル協会運営委員の鈴木 宏 会員が中心ですが、ほかの方の投稿も歓迎です。
ぜひこちらまでお知らせ下さい。
CD/DVDの曲目/タイトル、演奏者、購入店・経路、価格、コメント(寸評)など
分かる範囲の情報を教えて下さい。よろしくお願いします。


May 2008

日本ヘンデル協会  お薦め新譜ディスク2008年5月

2007年後半から、ヘンデル作品の新譜が続々と出ています。
この情報は上記鈴木運営委員の2007年末の情報に基づくもので、
2007年10-12月の新譜情報の第2弾です。
投稿は以前に届いていたのですが、HP担当の更新作業の停滞のため
掲載が遅くなってしまいました。お詫び申し上げます。

1.ヘンデルの傑作,「セメレ」の待望の最新録音が登場!

  
ヘンデル/音楽劇『セメレ
Handel: "Semele" HWV 58


ローズマリー・ジョシュア(S):セメレ
ヒラリー・サマーズ(Ms):アイノ、ジュノー
ブラインドリー・シェラット(Bs):カドマス、ソムナス
スティーヴン・ウォーランス(C−T):アタマス
ゲイル・ピアソン(S):イリス
リチャード・クロフト(T):ジュピター、アポロ
アーリー・オペラ・カンパニー
クリスティアン・カーニン(指揮)
録音:2007年4月
CHAN0745(3)
CHANDOS
ヘンデル:音楽劇「セメレ」 HWV58

 ヘンデルの「セメレ」は、一般的にはオラトリオとして扱われているが、聖書ではなくギリシャ神話を題材としている点、オペラ的な作風である点で、筆者はオラトリオと呼ぶのは抵抗があるので、ここでは音楽劇「セメレ」と表記させていただきます。
この作品は1743年に作曲,1744年にコヴェントガーデン劇場で初演され、代表作「メサイア」「サムソン」の直後の作品であるため、ヘンデルの円熟した技法が冴え渡る作品であり、オペラ時代に証明された女性の心理描写にもすぐれた面をも盛り込んだ、彼の面目躍如たる傑作のひとつであるといえます。
台本は、遡る1707年に別な作曲家のために書かれたものに手を加えたものであるが、ギリシャ神話に詳しい者には、台本作者のギリシャ神話からのアレンジが謎解きのようで、そういった面白さを持ち合わせた作品でもあります。
 この作品の録音には、1980年以降にかぎり、4種の録音が存在しており、ガーディナー盤、ネルソン盤、ウォーカー盤、スターン盤がそれであり、後者2つは、マイナーレーベルである。
 どれもそれぞれ特徴があり、特に、キャスリーン・バトルが魅力的なセメレを歌ったネルソン盤(ノーカット全曲盤)、オーストラリアの演奏家達によるオペラ形式上演のライブ盤であるウォーカー盤が面白いものであったが、ここにまたひとつ名盤が登場した。アーリー・オペラ・カンパニーとクリスティアン・カーニンのコンビによる録音である。セメレ役のローズマリー・ジョシュア
とジュノー役のヒラリー・サマーズは、以前彼らと、同じヘンデルの歌劇「パルテノーぺ」のCD(CHANDOS)で共演しており、好演であった記憶が新しいが、この「セメレ」でも他の歌手共々、全体的に水準の高い見事な演奏を聴かせてくれる。ローズマリー・ジョシュアのセメレは、薄幸の女の雰囲気が良く出ているし、ヒラリー・サマーズのジュノーはことさら嫉妬に狂った女を強調するわけでわないが、存在感充分である。「セメレ」の録音は部分的なカットをする録音が多く、ノーカット盤はネルソン盤だけであったが、モダン楽器による録音であり、ピリオド楽器によるノーカット盤はこれが初登場となる。正攻法で攻めた演奏で好感が持て、初めて聴く方にもお薦めの
CDである。ただ残念なのは、このようなすばらしいCDの国内盤が発売されないことである。国内盤の発売を切に望みたいところである。

2.ヘンデルオペラの最高峰のひとつ
「アルチーナ」の決定盤登場!


ヘンデル/オペラ『アルチーナ
Handel: Opera "Alcina" HWV 34

アニャ・ハルテロス(S):アルチーナ
ヴェッセリーナ・カサロヴァ(Ms):ルッジェーロ
ヴェロニカ・カンヘミ(S):モルガナ
ソーニャ・プリーナ(Ms):ブラダマンテ
ジョン・マーク・エインズリー(T):オロンテ
クリストファー・パーヴィス(Bs):メリッソ
デボラ・ヨーク(S):オベルト
バイエルン国立管弦楽団
アイヴォー・ボルトン(指揮)
録音:2005年7月 ミュンヘン、プリンツレゲンデン劇場(ライヴ)
(SACD Hybrid)S108080 FARAO(3)
FARAO
  


ヘンデル:オペラ「アルチーナ」 HWV34

 「アルチーナ」は昨年7月に東京室内歌劇場による上演があり、ご記憶の方も多いのではないかと思いますが、「ジュリオ・チェーザレ(ジュリアス・シーザー)」とともにヘンデルオペラの最高傑作の一つです。1735年に作曲、同年コヴェントガーデン劇場で初演されました。
男を動物に変えてしまう魔女アルチーナの、魔法によってしか愛を表現出来ない悲しい女の偽りの愛と、アルチーナに囚われた恋人ルッジェーロを救出するブラダマンテの真実の愛が物語りの中心となる魔法オペラで、バレーも挿入され、ヘンデル自身も旋律に以前にも増して深みを見せ始めた時期の作品であり、次々と繰り出される名アリアの連続に、聴きどころ、見どころ満載の作品といえます。
しかし、録音は「ジュリオ・チェーザレ」に比べるとかなり少なく、1985年にアルチーナ役にアーリン・オジェーを迎え、リチャード・ヒコックスが指揮した録音がEMIより出るに及んで、初めてまともな形で聴くことが出来るようになりました。このCDは何故か日本では国内盤の形で発売されていませんが、今でも完全全曲盤で魅力ある演奏としてその価値を保っています。やや緩慢に感じる部分や、歌手の出来に多少のムラを感じる部分もありますが、全体としてそれを補うものがあります。その後、約15年経ってようやくアルチーナ役にルネ・フレミング、ウィリアム・クリスティー指揮の夢のようなCDが登場しました。しかし、期待が大きすぎたのもあるのでしょうが、筆者には「アルチーナ」の魅力を伝えきれていないもどかしさを感じました。部分的には、すばらしい部分があるものの、バレーの部分はほとんどカットされ、他にもカットがあり、ヒコックス盤で聴きなれた耳には何かが足りない。もっとも舞台を見て判断したら別な感じを抱いたかもしれません。さてその後、DVDでカテリーネ・ナグレシュタットのアルチーナによる、シュトゥットガルト歌劇場の上演の記録が発売となりました。演奏はなかなかのものであったが、現代的な演出には賛否両論あり、筆者は売春婦のようなアルチーナには閉口し、少なくとも納得のいくものではありませんでした。バレーがカットされていたのも不満でした。
 そんな中登場したのが、バイエルン国立歌劇場による、豪華歌手陣を揃えた今回紹介するCDである。バイエルン国立歌劇場によるヘンデルといえば、数年前、来日公演ですばらしい「アリオダンテ」の舞台を堪能したのが記憶に新しいが、今回も指揮はアイヴォー・ボルトンで、彼はバイエルン国立歌劇場で数々のヘンデルオペラを手がけ、完全にヘンデルの音楽を手中に収め、この「アルチーナ」には余裕さえ感じられる。しかも、モダン楽器を使用しても充分説得力のある演奏が出来ることを証明してくれる演奏でもある。
全体的に早目のテンポ設定で、スピーディーな展開で聴き手を引き込み、随所で見せる情感豊かな歌唱が心に染み入り、深い感銘を与える。ハルテロスのアルチーナ、カンヘミのモルガナから、ヨークのオベルトまで、みな個々の役柄の特徴をうまく引き出し歌いきっており、完璧といっても過言ではない。さらにバレ−の部分もカットなく、完全上演となっている。第二幕の終わりのアルチーナが悪夢を見るバレーのシーンでは、ヘンデルは「アリオダンテ」と同じ音楽を使用しており、「アリオダンテ」ではヘンデルが意図的にバレーの後にそのままレチタティーヴォで終わらせる手法をとり、一方、「アルチーナ」はバレーの音楽で終わらせているためコーダに違いがあるが、この演奏では「アリオダンテ」のアイデアを取り入れて、バレーの音楽が終わった後、「アリオダンテ」と同じレチタティーヴォの台詞を挿入させて終わらせている。恐らくボルトンの経験による判断であると思われるが、理に適っており、ヘンデルの音楽を熟知している者でなければ出来ない事であろう。
このCDは、あらゆる意味で「アルチーナ」の決定盤と言って差し支えないであろう。
願わくば、DVDでの発売と国内盤の発売を望みたいところである。

3.ショルの「ジュリオ・チェーザレ」ついに登場!

  
ヘンデル/オペラ『ジュリオ・チェーザレ
Handel: Opera "Giulio Cesare" HWV 17


アンドレアス・ショル(CT):ジュリオ・チェーザレ
インガー・ダム=イェンセン(S):クレオパトラ
トゥーヴァ・セミングセン(Ms):セスト
ランディ・ステーネ(Ms): コルネーリア
クリストファー・ロブソン(CT ):トロメーオ
パーレ・クヌーセン(Br): アキッラ
マイケル・マニアチ(男声S ):ニレーノ
コンチェルト・コペンハーゲン(ピリオド楽器使用)
ラース・ウルリク・モーテンセン(指揮)

演出:フランシスコ・ネグリン

【収録】2005年
【仕様】216分/NTSC/リージョン・フリー

HMD 9909008.09
Harmonia mundi
ヘンデル:オペラ「ジュリオ・チェーザレ」 HWV17

 多くのファンが望んだと思われる、アンドレアス・ショルの「ジュリオ・チェーザレ」のDVD
がついに登場した。「ジュリオ・チェーザレ」はヘンデルのオペラの中でも比較的録音に恵まれ、鑑賞する環境は整っており、あまりコメントの必要はないと思われるが、CDでは、名盤の誉れ高いヤーコプス盤、最近ではミンコフスキ盤などがあり、DVDでは、現代的演出が話題を呼んだ、ピーター・セラーズ演出の1990年のモネ劇場のもの、2005年のグラインドボーン音楽祭でクリスティーの指揮、サラ・コノリーがジュリオ・チェーザレを演じたものがあり、後者は見事な男に変身した、貫禄充分なサラ・コノリーのジュリオ・チェーザレと、歌って踊るダニエル・ドゥ・ニースのクレオパトラがとても印象的で、ミュージカルのような「ジュリオ・チェーザレ」の楽しさを堪能し、感動したが、もう一つショルの「ジュリオ・チェーザレ」の登場で、また「ジュリオ・チェーザレ」の別な楽しみを提供してくれることとなった。演出は、軍隊が現代のそれに置き換わっているのは、もう一般化したため、珍しさはないが、常識的なぎりぎりの範囲での演出で見ていて安心出来、歌手もみな好調ですばらしい舞台となっているが、このDVDのセールスポイントは何と言っても、アンドレアス・ショルの乱れない歌唱の技巧のうまさを堪能する、その一言に尽きると思われる。ショルのジュリオ・チェーザレは、サラ・コノリーの貫禄充分なジュリオ・チェーザレを見た後では、優しい顔立ちがやや貫禄に欠けるが、それを見事な歌唱力でカバーしている。ショルだけがクローズアップされたが、しかし、全体的にこの舞台を引き締まったものにしているのは、トロメーオ役のクリストファー・ロブソンであろう。彼は、バイエルン国立歌劇場の「アリオダンテ」で見事な悪役ポリネッソを演じ、存在感をアッピールしていたが、この「ジュリオ・チェーザレ」では、誇大妄想狂のテロリストのような不気味さと、ユーモラスな仕草が、ショルの歌唱の見事さに対比される形で不思議な存在感を与えている。
ショルファンのみならず、ヘンデルファンに与えられた新たな贈り物と言えましょう。
文責 鈴木 宏(日本ヘンデル協会運営委員)

▲このページのトップへ戻る


「日本ヘンデル協会」では随時新会員を募集しています⇒くわしくはこちら


Records
ここから下は過去の記録用スペースです


December 2007

日本ヘンデル協会  お薦め新譜ディスク2007年12月

2007年は10月から12月にかけて、ヘンデル作品の新譜が目白押しです。
第一弾としてオラトリオ《ソロモン》の新録音を紹介しましょう!

ロイス VS マッギガン  ソロモン対決

  
ヘンデル/オラトリオ『ソロモン
Handel: Oratorio "Solomon" HWV 67


サラ・コノリー(A):ソロモン
スーザン・グリットン(S):ソロモンの王妃、第1の遊女
キャロリン・サンプソン(S):シバの女王、第2の遊女
マーク・パドモア(T): ザドク、従者
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(Bs):レヴィ人
RIAS室内合唱団
ベルリン古楽アカデミー
ダニエル・ロイス(指揮)
録音:2006年5月 
HMC901949
Harmonia Mundi



ヘンデル/オラトリオ『ソロモン
Handel: Oratorio "Solomon" HWV 67

ティム・ミード(A):ソロモン
ドミニク・ラーベル(S):ソロモンの王妃、第1の遊女
クラロン・マクファーデン(S):シバの女王、第2の遊女
マイケル・スラットリー(T): ザドク
ウィリアム・ケンダル(T): 従者(ウィンチェスター教会合唱団)
ロデリック・ウィリアムス(Bs):レヴィ人
ウィンチェスター教会合唱団
ゲッティンゲン祝祭管弦楽団
ニコラス・マッギガン(指揮)
録音:2007年5月26日(ライヴ)
83242
Carus
  


ヘンデル:オラトリオ「ソロモン」 HWV67

 このオラトリオはヘンデルが晩年、1748年に作曲し、旧約聖書、列王記の栄華を極めたソロモン王をテーマに、心に描いた英国の黄金時代を表現したひとつの音楽絵巻であるといえましょう。
 このオラトリオの新譜が2007年10月、11月と立て続けに登場しました。国内盤でないのが残念ですが、「メサイア」を除いて、これはかつてないことです。
 そもそも、「ソロモン」は1970年代頃までは、日本では、ビーチャムの指揮した旧スタイルの大オーケストラによる仰々しい演奏でしか接する機会が無かったように記憶しています。ところが古楽復興の救世主の一人として現れたガーディナーの指揮するヘンデルのオラトリオ演奏が1970年終わりから始まり、その新鮮な演奏が脚光を浴びる中、彼の指揮する「ソロモン」の録音も1980年中頃誕生します。我が国のヘンデリアン達も始めて聴く新鮮な「ソロモン」の登場に胸躍らせたのでした。しかし、その後始まるヘンデルルネッサンスにも関わらず、「ソロモン」のこれといった録音はなく、約15年後にやっとマクリューシュ指揮のすばらしい華麗な、決定版もいえる演奏が登場します。この演奏のせいでガーディナー盤はすっかり影が薄くなってしまった感がありました。(もっともガーディナーの他の演奏も新興勢力の登場で同じ運命を辿ったように思いますが。)その意味で、「ソロモン」は録音にあまり恵まれていない作品です。
 その後、ナクソスより、マルティーニ指揮の録音が登場しましたが、それほど注目すべき演奏ではありませんでした。そのため、今回の2つの録音の登場は注目に値します。

 ひとつは、ダニエル・ロイス率いるベルリン古楽アカデミーと強力歌手陣による演奏、もうひとつはニコラス・マッギガン率いるゲッティンゲン祝祭管弦楽団と若手実力派歌手陣による演奏です。

 前者ロイス盤は、透明感溢れる、宗教的雰囲気抜群の美しく、壮大な合唱と、妖艶な雰囲気を感じるアリアの対比が印象的で、聖と俗の対比ともいえるその表現により、実に魅力的な「ソロモン」が堪能できます。第一部の最後のナイチンゲールの合唱の濃厚な表現はマクリューシュ盤以上だし、第二部の二人の遊女の子供をめぐる裁判の場面のドラマティックな表現はマクリューシュ盤と双璧であるといえましょう。

 一方のマッギガン盤は、ドレスデンのフラウエン教会でのライブ録音ですが、会場の響きのせいもあるのか、やや音が大味に聞こえ、合唱はロイス盤に比べて魅力が落ちるように感じられます。歌手陣は安定した歌唱で好感が持てますが、全体的に地味な印象が拭えません。総体的にマッギガンの真面目な性格が演奏に反映されている感があり、水準の高い演奏ではあり、始めて「ソロモン」を耳にする愛好者には充分な演奏ではあるものの、ロイス盤に比べてこれといった魅力に欠けるのが惜しいように感じられます。すばらしいマクリューシュ盤の登場の後では、何か新しいオリジナリティを感じる演奏でないと存在価値を得るのは難しいのではないでしょうか。マッギガンのキャリアからすれば、もうひとつプラスアルファの何かを望みたいところです。(そもそもマッギガンの録音は出来不出来が激しく、「オットーネ」や「ジュスティーノ」のようなすばらしい録音が有るかと思えば、何を表現したいのか分からない「ユダス・マカベウス」や気の抜けたような「アリオダンテ」などの駄演も存在するので、聴いてみるまで判らない怖さが常に付きまとう。)
 なお、「ソロモン」で議論のある第三部の最後の陳腐な合唱(The Name Of the Wicked….)で終わる点について、曲のバランスを悪くしているので、ウィントン・ディーン氏の指摘のように最後から2番目の合唱(Praise the Load with…..)を最後に持って来て、この合唱で締めくくるというアイデアは、ガーディナー盤とこのロイス盤で採用されています。筆者もこのアイデアを支持します。
文責 鈴木 宏(日本ヘンデル協会運営委員)

▲このページのトップへ戻る


「日本ヘンデル協会」では随時新会員を募集しています⇒くわしくはこちら


May 2007

日本ヘンデル協会  お薦め新譜ディスク2007年5月

   人気沸騰!古楽系美人女流指揮者エマニュエル・アイムの決定盤 !!

ヘンデル/オラトリオ『時と悟りの勝利HWV46a
Handel: Oratorio "Il trionfo del Tempo e del Disinganno"

ナタリー・デセイ(美)、アン・ハレンベルグ(快楽)、
ソニア・プリナ(悟り)、パヴォル・プレスリク(時)
エマニュエル・アイム指揮/ル・コンセール・ダストレ

Virgin CLASSICS 0946 3 63428 2 5


 今、最高のコロラトゥーラ・ソプラノとしての名声を確立したナタリー・デセイと珍しい古楽系女流指揮者として、その演奏のすばらしさから脚光を浴びているエマニュエル・アイム、さらに若手実力派の歌手陣による、すばらしいディスクが登場した。

 このオラトリオは、若きヘンデルがイタリア時代に作曲した作品で、後に1730,年代後半の円熟期に改訂を加え、さらに晩年、イタリア語で書かれた台本から英語の台本に変更し、再改訂を加えるなど、ヘンデル自身こだわりを見せた作品である。しかし、録音は限られており、一般にはなかなか耳にする機会が無く、しかも若いミンコフスキが録音した演奏はやや策に溺れた感があり、続くアレッサンドリーニの演奏は、やや過激ともいえる表現で、決して一般受けするものとは言えなかった。そのため初めて耳にする愛好家やマニアにも納得のいく録音が望まれていた。そんな中、ようやく満足のいくすばらしい録音が登場した。それが今回お薦めディスクとして紹介するものである。

 デセイはもちろん、ハレンベルグ他の女性歌手ともども派手さはないが情感豊かな歌い方が見事で、ヘンデルの曲の持つ魅力を最大限に引き出している。テノールのプレスリクも見事な歌いっぷりである。ただ、惜しい点があるとすれば、ヘンデルの曲の持つ奥深い情感を引き出すまでには至らず、やや表面的な感がある点であろう。それでも平均打率は3割を超えている。
 アイムの指揮は各アリアごとの緩急、静動の対比の妙が実にすばらしい。
それでいて過激な表現は一切無く、かといって逆に中庸な表現でもなく実に自然な表現として確立されているのである。最近の評判を裏付けるものと言えます。
そのためヘンデルの曲の魅力が実に自然に伝わり、この曲を何度も聴きたい気持ちにさせてくれます。

 まだこの曲を聴いたことの無い方、聴いたけれどその真価がまだ良く分からない方は、この演奏を聴けば、何とすばらしい曲であるかが理解できることでしょう。

 日本では4月中旬に輸入盤として有名CDショップ等で店頭に並び始めましたが、まだ国内盤では発売されていません。このような曲こそ、日本語解説、台本対訳が必要であるため、国内盤での発売を強く望むところです。
文責 鈴木 宏(日本ヘンデル協会運営委員)

▲このページのトップへ戻る


April 2007

現状空欄

▲このページのトップへ戻る