小林会員のロンドン情報 News from London


W.ディーン著『ヘンデル・オペラセリアの世界』を藤江効子会長と共訳したことで知られる
小林裕子会員がロンドンから届けて下さった情報を掲載します(以前ホームページに載ったものです。)
小林会員はその後も研究会などで、折に触れロンドン情報や論文紹介などをなさっています。
ぜひいらして下さい。(研究会情報は⇒こちらをご覧下さい。)


第25回ロンドンヘンデル祭のお知らせ
【2002年寄稿】 文責 小林裕子
第25回ロンドンヘンデル祭が2002年3,4月に行われます。その内容を紹介いたします。
(HP編集者より:ロンドンヘンデル音楽祭ほか海外の音楽祭情報を
「その他の演奏会のページ」(⇒こちら)にも載せるようにしました。
ご覧下さい。 2007年5月 HP編集担当)
この行事はヘンデルがその教区民だったLondon, Hanover Square W1にあるSt.George's Churchを拠点とし、London Handel Societyがおこなっているものです。来年が第25回目となります。

3月10日(日)午前11:00より St.George's Churchにて開始の礼拝。(無料) Handel ; アンセム"As pants the hart(鹿が求めるように)"

3月11,12,14,15日、午後7時、Britten Theatre,Royal College of Musicにて。Handel; Brockes Passion HWV 48

これはBenjamin Britten School of OperaとRoyal College of Musicの協力による演奏で舞台上演です。すなわちオペラとしての上演でこれは世界初演。
演奏:London Handel Orchestra, Denys Darlow(指揮), Tom Hawks(プロデューサー)

3月12日、午後6−6:30、During Room(Royal College of Music) (無料)
プロデューサーTom HawkesによるオラトリオEstherについての講演。

3月21日(木)午後7時、St.George's Church 第1回ヘンデル声楽コンクール、ファイナル

3月14,25日、午後1時10分、St.George's Church ランチタイム・バロック室内楽コンサート(無料)
演奏はRoyal Academy of Music,Royal College of Music及びGuildhall School of Musicの有志による演奏。

3月29日(金)午後2時30分、St.George's Church

J.S.Bach;St.Matthew Passion(マタイ受難曲)BWV244
演奏:London Handel Orchestra and Choir, Denys Darlow(指揮)、Rogers Covey-Crump,James Rutherford,Joanne LunnmClint van der Linde,Matthew Beale,Christopher Dixon(以上ソロ)

4月11日(木)午後2:30−6:30 Handelツアー。Royal College of MusicのRodericl Swanton氏とともに住家周辺を歩く。

4月11日(木)、午後7時、St.George's Church Alchemystと題されたコンサート

Handel(Concerto Grosso in G), Purcell(Music in the Virtuos Wife), C.P.E.Bach (Concerto for fl. in d), Lully(Ballet des Muses), Corelli(Concerto Grosso in D), Handel(Suite)その他。
演奏:London Handel Orchestra, Adrian Butterfield(指揮)

4月12,16,26日、午後1時10分、St.George's Church ランチタイム・オルガン・リサイタル(無料)

演奏:Royal Academy of Music, Royal College of Music, Guildhall School
of Music and Dramaのオルガニストによる演奏。

4月17日(水)、午後7時、St.George's Church カンタータと協奏曲の夕べ:Handel; Il pastor fidoより序曲、カンタータ "Crudel tiranno amor "HWV97、"Cecilia,vogli un sguardo"HWV89その
他。演奏・London Handel Orchestra, Laurence Cumming(指揮)、Emma Kirkby(ソロ)

4月17日、午後5:45−6:30、St.George's Church
18世紀のLondon ,Pleasure Gardenについての講演。Anne Robey

4月23,25日、ヘンデル祭25回を記念してST.George's Churchにて午後7時より
Handel: Esther
Handel最初の英語によるオラトリオ、1732年King's Theatre初演。

演奏:London Handel Orchestra and Choir, Laurence Cumming(指揮)、Rosemary Jpshua,Rebecca Outram,James Bowmann Christopher Purves(ソロ) この演奏はレコーディングされます。

4月23日午後5:45−6:30、St.George's Church
Handelの Esther、1732年版についての講演。David Vickers.

4月29日(日)午後5時15分
St.George Chapell, Windsor Castleにてヘンデル祭終了の礼拝。(無料)
 
以上です。これらのコンサートは(無料)と記したもの以外は有料です。チケットの値段や入手方法についてはLondon Handel Societyのホームページをごらんください。

www.london-handel-festival.com

です。


 私は3年間ロンドンで過ごしましたが、水仙やクロッカスが地面を覆う頃になるとそれはヘンデルの季節でした。ヘンデルが足を運んだ教会でオラトリオやカンタータを聞くたびに18世紀にタイムスリップするような気持ちにもなりました。2002年11月8日にこの教会近くにあるヘンデルの住まいも博物館としてオープンしました。いちど足を運んでください。またちょうどこの時期の English National Operaの演目にAriodanteが入っています。
【2002年寄稿】

▲このページのトップへ戻る


ロンドン、ヘンデルハウス博物館について
【2001年12月25日年寄稿】 文責 小林裕子
ヨーロッパ、クラッシック音楽のサイト (andante.com) に Handel House Museum についてのニュースがでました。以下日本語にしたものです。

*******************************************

ロンドン、ハレルヤを歌う:待望のヘンデル・ハウス博物館
David Vickers(2001年12月11日)
Brook Street 25番地にあるつつましい住まいは音楽史のなかでも最も意味深い場所のひとつです。ここはジョージ・フレデリック・ヘンデルの住まいでありここで生涯の半分を過ごしました。おそらく2階の部屋で彼の主要作品が生まれ、リハーサルされたのです。そして1759年4月14日にここでその生涯を閉じました。死後ここは下宿屋として用いられ、19世紀には大々的に改造されてしまいました。今日ですら1階部分はブティックです。しかし2階以上の部屋は復元され、2001年11月8日にヘンデル・ハウス博物館として姿を現しました。

このプロジェクトを軌道に乗せるまでに数十年を要しました。最初に New Grove Dictionary of Music and Musicians の編集長でありヘンデル研究の権威でもある Stanley Sadie 氏がこのアイデアを1959年に提示しました。1990年代初期に彼と彼の妻でありバロック音楽の権威でもある Julie Anne 夫人が Handel House Museum Trust を設立し、ロンドンを国際的なヘンデリアン・ライフの中心点とする博物館をつくるべく始動したのです。

英国政府の援助をしない、という決定は Sadie 氏のより意欲的なプランを断念させ1階部分の復元を妨げることになりました。使用人が演奏会のチケットを販売していた1階部分、また肥満で有名だったヘンデルの台所をのぞけないのは残念なことではあるのですが。

より困難なことはメイ・フェア地区にある不動産のコストの高さでした。(現在はロンドンのファッシンの中心地です)1742年のヘンデルの年間家賃は50ポンドでした。この家の復元にかかった費用は530万ポンドです。数多くの後援者のおかげで上階部分とお隣の23番地の住まいを博物館にすることができました。

見学者は寝室、歌手たちやオーケストラの奏者たちをあつめてリハーサルをした部屋、そして傑作のほとんどを作曲したであろう小部屋を見ることが出来ます。23番地の部屋は展示室です。ジョージアン時代のインテリアが両方に見られます。

復元の出発点は1723年、ヘンデルが引っ越してきたその時の状態に家をもどすことでした。ヘンデルは1723年の夏にここへ引っ越したと思われます。階段と床の一部がヘンデル時代のまま無傷で残っていました。大理石の暖炉はコヴェント・ガーデンの Tom’s Coffee Houseから移築されました(ここはヘンデル時代、ロンドンの文学者たちが飲みかつ語った場所です)。羽目板は当時のインテリアがそのままに残っている Brook Street の別の家に倣って作りました。ヘンデルの住んでいた4部屋に共通のペイントの色はおよそ30層にも塗り重ねられた一番下の色、グレイに基づいています。

家具についてはヘンデルの死後に作られた財産目録に基づいてデザインしたのですが、かなりまばらにしかおいてありません。もしこのことがこの家があまりにも家庭的でない、という印象を与えるとしても根拠のない推量をよぶことにはならないでしょう。1720年代に松材で作られたベッドは English Heritage から借りました。ベッドを被っている濃い赤の布地は Worcestershire にある Nartional Trust 所有の Hanbury Hall にある類似したベッド、及び当時の絵画に基づいて作られました。

1段鍵盤のハープシコードがこの博物館のために Michael Cole 氏により制作されました。これは Philip Mercier の手になる有名なヘンデルの肖像画の中に描かれている楽器をモデルにしたものです。Cole 氏は Mercier の絵の中に描かれている楽器の詳細が University of OxfordのBate Collectionに 良い状態で保存されている楽器とマッチするという主張を Early Music のなかで論じています。今、この説を強調するかのようにCole 氏の新しい楽器は Mercier のオリジナル絵画の真下に誇らしげに置かれています。

別の2段鍵盤のハープシコードはリハーサル室に置かれています。これら2台の楽器はロンドンにある主要音楽大学の学生達により使用されています。単に部屋のなかに音楽が流れているだけ、あるいは軽々しい雰囲気を創り出すのではなく、この博物館は可能になりしだい生演奏を特徴にしようと計画しており、木曜日夕方に室内楽のコンサートを定期的に行う計画をもっています。

訪問なさる方々はもし Companion Book を最初にお読みになる、あるいは Harmonia Mundi とヘンデルのエキスパートである D. Burrow 氏の協力によってつくられたオーディオガイドをお聞きになると特にこの博物館を楽しむことが出来るでしょう。1時間のオーディオツアーが終った後は周りの椅子に注意してください。博物館の中に置かれているほとんどの椅子は歴史的対象物であり疲れた見学者のたものものではないのです。

見学前に見るフィルムは12分の長さです。これは舞台監督である Nicholas Hytner 氏(ENO)、 Lee Blakely (of Clori,Tirsi e Fileno at the Covent Garden Festival)、それにハレルヤコーラスを絵画化した Jane Mackay らからのコメントがその特徴です。そのほかに専門的なコメントが Ch. Hogwoodと Sir Charles Mackerras からあります。しかしこれだけではフィルムの内容の乏しさを十分補うことはできません。極めて入念にリサーチされつくられた博物館の第一印象がこのように粗末だというのは残念なことです。愛情深いヘンデリアンはどうぞ皮肉をおっしゃらないでください。あるいは導入部などは無視して館内にまっすぐに進んでください!

これとは対照的に23番地の部屋にあるいくつかのガラスケースには本物の宝が収納されています。たとえばヘンデルから台本作者のジェネンズにあてた1744年の手紙、ジェネンズの書き込みのあるマナリンクのヘンデル伝、ヘンデルのフーガを弦楽四重奏に編曲したモーツアルトの自筆譜です。

博物館オープンの公式記念式典がヘンデルがその教区民だった St.George’s Hanover Square にて11月22日に執り行われました。これはバロック様式の教会で Brook Street、ポピュラーなショッピングエリアである Regent Street、そして Oxford Circus に囲まれた所に位置しています。St.George’s Church は London Handel Festival の会場としても知られています。記念式ではフェスティヴァルの監督である Denys Darlow、Laurence Cumming 両氏が Mackerras 及び Orchestra of the Age of Enlightenment と共に St. Cecilia’s Day のコンサートを催しました。テノールの Anthony Rolfe Johnson とカウンターテナーの Michael Chance が病気のため出られませんでしたがこの夕べは大成功でした。

Mackerras とオーケストラは合奏協奏曲 Op.6-5 を輝かしく、しかし決して派手ではない演奏。ソプラノの Lesley Garrett は Samson から ”Let the bright Seraphim” に際だったダカーポを。メゾソプラノの Louise Winter は真心あふれた ”Ombra mai fu”(Serse)。すばらしい若きソプラノ、Joanne Lunn は華やかな ”As Steels the morn”(L’Allegro) をテノールの Mark Dobell と。経験豊かなヘンデル歌手であるテノール、Ian Partridge はあまり有名ではないが St. Cecilia’s Day にふさわしいカンタータ ”Look down,Harmonius Saint” を好ましく歌いました。バスの Michael George は ”The trumpet shall sound” をしっかりと歌い、最後にソリスト全員と指揮者が一緒になって Mackerras の指揮のもとで ”Hallelujah” を歌いました。また俳優の Simon Callow による朗読が音楽演奏のようにヘンデルのユーモア、情熱そして威厳を披瀝しました。

(この後に2001年に行われたヘンデル関係演奏会およびCD批評、ニュースがありますが割愛します)

*******************************************

・筆者 David Vickers 氏は Open University の若手ヘンデル学者。ヘンデル全集の Partenope の校訂をしている。Andante.com 公式批評家。主としてバロック音楽の批評担当。英国、Huddersfield 在住。

▲このページのトップへ戻る